ワンスアラウンドの『現場マガジン』 2021年11月10日号


皆様いつもお読みいただきましてありがとうございます。
ワンスアラウンドが毎週お届けしている『現場マガジン』は、 文字通り我々が運営する《現場》発のホットな情報をお届けするメールマガジンです。
今週は、『マーケットレポート』の第17弾をお届けします。
コロナ禍でのマーケットの変化と、商業施設を中心とする現場の変化をタイムリーに捉えながら、 自らも現場を持つ弊社ならではの視点で、これからの時代へのヒントをお届けしたいと思います。

【Market Report vol.17】


ショッピングセンター(SC)の未来を考える ―第8回―

こんにちは!ワンスアラウンド顧問の馬場です。
前回は、今後のSCのモデルの方向性の新しい切り口について掘り下げましたが、そこには明確な事業コンセプトをもって、 地域課題の解決や町づくりに情熱をもって取り組んでいけるかどうかが最も重要であり、そんな拘りと情熱を持っていれば、 SCは商業施設から生活施設へ、さらに社会施設へとシフトしていくのではないでしょうかとレポートしました。
そして、その事業推進にあたっては、社会構造の変化や社会活動の多様化に併せたテクノロジーの進化が不可欠となっています。

今後のSCにおけるDX戦略とは?

今年、デジタル関連で組織を変更した企業は60%と言われ、今後に備えてのデジタル推進に取り組む姿勢が鮮明になっています。

最近では、SCにおいても「DX(デジタルトランスフォーメーション)」に関わる施策が増えていますが、 今回は、SC運営でのデジタル化について事例を挙げながら検証します。
(次回はオムニチャネル化に向けてのオフラインとオンラインの融合について掘り下げたいと思います)

SC運営でのデジタル化
SCにおいては、DEV、テナントともに、リアル店舗(オフライン)とEC(オンライン)の融合が求められていますが、 施設運営での販売促進やCS分野においては、「安全・安心」のためのデジタル化が加速しています。
また、ES分野では、営業時間短縮や店休日問題をはじめとする「働き方改革」がクローズアップされる中で、 「いかに働きやすさを実現させるか」が重要となっており、「情報の共有と業務効率化」を掲げて、 デジタルツールによる様々なサポートやサービスの見直しが図られています。

(1)「DXが変える 安全なCS」

コロナ禍でのCS(お客様満足)においては、先ずは感染防止を念頭においた 「安全・安心」な方法への転換が加速しています
広域に向けられていた販促のイベントやチラシの宣伝は控えられ、 デジタルを活用した「買物券販売」「クーポン券発行」「非接触での抽選会」「ポイント制度での再来店促進」など、 DXがその具体化を支えました。

また、館内情報ではデジタルサイネージの活用、キャッシュレス決済、 ポイントカードのアプリ化が当たり前となり、チラシが会員向けのSNSやアプリに変わっています。

(2)「DXが支える コロナ禍後のES」

DXは、SC運営も変えています。
これまでは、DEVとテナント間の懇親会や親睦旅行、そして教育研修などESや一体感醸成に向けた 取り組みに力を注いできましたが、コロナ禍で対面での会議や研修が限られることから、 「コミュニケーションが課題」とされていました。とりわけ、売上の減少が販売スタッフのモチベーションを下げており、 「モチベーションアップ対策」には頭を悩ませていました。

そんな中、デジタル技術により、店長会や教育研修がオンライン化され、 DEVとショップスタッフをつなぐためのアプリが導入され、 新たなコミュニケーションツールによる連絡体制が構築され始めています

イオンモール、三井不動産、パルコや、JR系のルミネ、アトレを始めとする駅ビルでは、 連絡報や各種申請を「紙からデジタルへ」置き換えるために、端末の貸与やアプリなど手法は異なりますが、 デジタル化により、テナント側の作業量を軽減することが見込まれることから、 ES(従業員満足)の向上の一環として、今後根付いていくのではないでしょうか?

<事例1>三井不動産グループの取組み  (ニュースリリースより)

「デジタル活用による働きやすい環境と豊かなコミュニティ創出の取組み」を掲げて、 約40施設において、そこで働く約10万人のスタッフとの連携を目指して、 デジタルツール「三井ショッピングパーク Staff Circle(スタッフサークル)」を 本年8月から順次スタートさせています。


働きやすさを実現する機能を集約したアプリ「はたLuck®」を活用して、 ショップで働く一人一人へ、ソフトとハード両面から様々なサポートやサービスを提供し、 働きやすさと働きがいを向上させる取組みです。
主なサポートやサービスは、以下の5項目です。
  1. リアルタイムな情報伝達、共有による円滑なコミュニケーションの実現
  2. ショップ運営の生産性向上をサポート
  3. 従業員証のデジタル化
  4. スタッフ向けの特典・福利厚生サービスの拡充
  5. オンライン配信による研修や自己啓発サポート
具体的には、
  1. 従前は、掲示板ポスターや配布物、ショップ店長経由の伝言が主な伝達手段でしたが、 「紙からデジタルへ」タイムリーな連携・共有が可能となります。

  2. 日々のシフト管理や業務連絡などアナログで行われている業務負担の軽減を目指しています。 また、スタッフ同士は専用のトークルームを利用して、 スタッフ間で褒め合う環境づくりを目指し、お互いに「星(いいね!)」を贈って モチベーションを向上させる機能も付いています。

  3. 従業員証のデジタル化(カードレス化)により、アプリ内のQRコードによる スマートな入退館が可能となり、書面でおこなっていたスタッフの登録手続などが簡素化され、 出退勤などの労務管理負担も軽減されます。

  4. スタッフ向けのお得な優待やイベント情報をアプリでリアルタイムで確認出来、 日々忙しいスタッフの働き甲斐や満足度の向上をさせます。

  5. 対面で行っていた研修などをスタッフ自身のスマートフォンからいつでもどこでも簡単に受講できます。 施設特性に応じた接客やマナー、VMD研修といったスキルアップ・自己啓発などの 動画コンテンツが配信されます。

<事例2>ボンドゲート導入に伴う現場の声

他SCも同様のシステムやアプリを採用しながらデジタル化を進めていますが、 全国で240SC、約15,000店舗に採用されている「リゾームのボンドゲート」を 導入しているSCの店長に活用状況を聞きました。

店長はアプリを導入した個人携帯で、スタッフは貸与されたiPadで、 コンペチターの入力時やお知らせの館内放送時に確認しています。
※(三井不動産グループの「はたLuck®」は、スタッフ全員が個人携帯にアプリを登録します。)
コンテンツは10項目程ありますが、
閲覧頻度が高い順は、
 ①売上閲覧 ②お知らせ ③申請 ④スケジュール ⑤マニュアル
使用したことが無いのは、 ショップグループとユーザーグループ
 理由) 使い方がわからないことと、必要性を感じない
DEVとのコミュニケーションの変化
「申請」を活用して、自店販促のイベント細目の承認申請をしているが、 営業担当者に「何をやっているか」を知って貰えて、巡回時に声掛けいただくなど、 コミュニケーションがスムーズになっています。
一番助かっていること
館内オペレーション関連で分らない時には、「マニュアル」が紙ではなくデータなので、 スムーズに確認できることです。
DEVへの要望
月報やアンケートなど、まだまだ紙ベースが多い。
月報は売上閲覧があるので、そこに動向等が記載できると、 テナント間でも有効活用が出来るのではないでしょうか?

弊社での取り組み事例&そこから見えてきたこと

弊社は、25店舗の販売代行店舗を運営しながら、教育研修事業に取り組んでいますが、 デジタル化で取り組んだこと、そこから見えてきたことを述べさせていただきます。

■「オンライン研修」の現在地
2019年まで、SCの教育研修は、100%集合型で実施していましたが、 2020年のコロナ後は、集合型が難しくなり、オンライン研修をスタートしました。
2021年では、密を避けながらの集合型とオンライン型のMIX型研修も実施しています。
コロナ前(2019年) コロナ後(2021年上期)
集合型 100% 31%
オンライン型 ライブ型 46%
動画配信型 23%
小計 69%

オンライン研修はどこからでも受講出来るメリットがあり、講師との距離感が近いため、質問しやすく、 資料も画面表示で見やすくなるため受講者の参画意識や理解度が従来の集合研修を上回るという効果も確認されています。

また、オンライン研修のライブ型は実施が難しいとの声から、直近では、 いつでもどこでも視聴出来る動画配信型の「オンデマンド研修」が増加しています。

■「オンラインロープレ」の企画実施とその効果
昨年、コロナ禍で、SC協会のロープレ大会が中止になる中、 あるDEVからショップスタッフのモチベーションアップ、 接客スキルアップを目的として何とかロープレ大会を実施出来ないでしょうか?との相談を受け、 「オンラインロープレ大会」を企画・提案し、実施しました。

具体的には、大会概要の目的・スケジュールを告知後、
エントリーサイトを開設し、出場エントリーと動画撮影スケジュール登録をしていただきます。 ここでは、リアルの大会ではスケジュール調整が大変だった 営業部スタッフの負担が大きく軽減されました。
ロープレ実技は、弊社がお客様役と動画撮影を担当し、 撮影した動画を専用ストリーミングサーバーにアップし、動画映像を審査対象とします。
審査は、「予選会」と「決勝大会」を設定し、 それぞれの「投票サイト」から、全ショップが動画を視聴して投票します。
予選会は、例えばフロア別、業種別などのブロックを設定して、ブロック単位の投票によりブロック代表を決定し、 決勝大会は、ブロック代表に対して全店の投票に審査員による選考を加えて、入賞者を選出します。
その後は、「結果発表サイト」で優秀スタッフの動画と審査コメントを公開し、
入賞者の良い点を好事例として全店が共有し、 さらにフィードバック研修を実施して接客レベルアップに繋げています。

オンラインロープレ大会の最大の特徴は「みんなで選ぶ」全店参加型ということです。
従来の集合型の場合は、出場者と出場店舗の応援メンバー以外はロープレを見ることができず、 出場していない店舗の参画意識はほとんどありません。
しかし、オンラインでの全店参画型にすることにより、館全体のモチベーションアップ、 接客スキルアップに繋げることができます。

さらに ・運営に関わる営業担当者の時間コストが大幅に軽減できる
    ・撮影動画が生きた教材となり、好事例研修に活かせる

といった効果があります。

■一方で、DX化を進めるにあたり、気をつけなければならないこと
導入、運用にあたっては、システム開発担当者任せではなく、事業経営者 および推進者が、自らシステム内容を理解しなくてはいけません
 → そして根付かせるためには、推進リーダーの設定と専門人材の育成が求められます。

DX化は、事業組織のプラットフォームづくりに繋がりますので、導入をゴールにしてはいけません
 → テナントへの周知徹底と、日々活用し続ける中での課題事項については、 常にブラッシュアップが求められます。

この分野の進歩は目覚ましく、各SCにおいても、 導入後すぐにまた他社の新しいシステムが開発されるという実態があります
 → 従前のシステムと新システムが並行して運用されているSCでは、 テナントの負担になっているようですので、声を聞きましょう。

<今回のまとめ>

■デジタル化の中で、SCに求められるもの

恒常化したコロナ禍により、ビジネスの様々な前提が覆り、SCの施設運営においても、 アナログからデジタル化が進んでいる事がわかりました。
そして、前述のように、DX化に向けて気を付けなければならないことも見えてきました。

新たなテクノロジーを活用したデジタル化は、 ややもすれば「導入」が目的になりがちですが、本来の目的は「効率化」と「付加価値の向上」であり、 デジタル化はあくまでも手段です。
このことを見失うことなく、人と人を繋ぐコミュニケーションがスムーズに効率的に取れているか?の判断を常に心掛けながら、 成果を見極めてデジタル活用を推進していきましょう!


最後までお読みいただきありがとうございました。
次回もよろしくお願いいたします。

ワンスアラウンド株式会社
顧問 馬場 英喜


このメールマガジンは、お客様によるご登録や名刺交換など、弊社と何らかのご縁をいただいたお客様にお届けしております。
皆様からのご返信を筆者も楽しみにしております。ご感想などございましたら、
ぜひ本メールよりご返信下さい。


バックナンバーはこちらからお読みいただけます。